キヒヌ島の伝統的工芸技術と民族衣装

よそ者の目でキヒヌ島の伝統文化を見ると、キヒヌでは住民の合意をもとに伝統を保護したりするので、今ではほとんど流行したものになっているようです。しかし、島の住民から見れば、伝統的な毎日の暮らしは人々にとって自然で唯一な生活し方だけです。キヒヌ島に住んでいる女性は誰かに印象づけようとではなく、ただの愛情を表すために伝統的な「クルト」(kört) というスカートを毎日履きます。キヒヌの女性にとって民族衣装は世界でいちばん美しいもので、クルトを履いていると自分も美しく感じます。しかし、​都市に行ったら民族衣装の代わりに普通の服を着ます。また、キヒヌのどの女性が​​約60枚のエプロンを持ち、毎日違うものをかけているのは、むろん他の女性に自分の美しいエプロンを見せたいわけです。本土から海で離れた島なので、自分の文化に対する愛を支えてきたのは、やはりキヒヌ方言という島の言葉と周辺の自然環境と人々の孤立的生活スタイルの三つのことであるでしょう。女性の民族衣装は、赤、「半分赤」、「キプス」(kiipsuga) のパターン、青または黒という様々な色や縞のコンビネーションがあるクルトです。黒い縞が入っているクルトは喪服です。葬式の約半年後に、黒いクルトの代わりに青いクルトを履きます。具体的にいつクルトの色を変えるということは、その女性の年齢や亡くなった人との親疎関係によって決めます。また葬式から少し時間がたち、青めのスカートに少ない赤縞が入っている「キプス」のパターンのクルトを履きます。次には赤と青の縞がある「半分赤」のクルトを履きます。夫を亡くしてやもめになった女性は赤いクルトはもう一生履きません。

また、花嫁は自分の独身時代のことを悲しみ泣いているので、結婚式には喜びの色である赤のクルトを履きません。結婚後も、少女の色だと思われる赤い服は着ません。ただし、女性が死んだときだけ、彼女を赤いクルトに着せて最後の道に送ります。

キヒヌ島の男性の民族衣装はきれいな模様がついた「トロイ」(troi) というセーターですが、毎日それを着用しません。トロイは威厳のものでありながら貴重な贈り物もあるので、キヒヌ島の名誉市民と選ばれた人はその贈り物を誇りに思って着ています。

キヒヌ島の伝統文化には、特別な状況があります。ここの住民の倉庫には、普通なら博物館のショーケースにしか見られない道具などの古い物がたくさんあり、まだまだ日常的に使用しています。とはいえ、地元の文化やライフスタイルを紹介するキヒヌ博物館は、島全体にわたる大規模な屋外博物館の中心部に位置するもう一つの博物館のようです。

キヒヌの女性の職人技が現代に確実に伝わってきたので、博物館のショーケースや倉庫の中で保存される手工芸品の巨大なコレクションは非常に貴重で、どんどん増えています。精神的な文化も古い工芸技術も先祖から次世代に継承され、キヒヌ島に見られる「博物館文化」も特別な現象だということができます。